2016年08月13日

ビュッケブルグ歳時記 137

ベルリン市長


 数週間前に、東京都は新しい知事を選定したと聞きます。そこで、ドイツ便りとしてこの国の首都、ベルリンの市長についてお知らせしてみます。


 ベルリンは首都である他に、ドイツに3例(ベルリン、ブレーメン、ハンブルグ)存在する都市国家の一つです。都市国家とは、一都市が州と見なされて州と同じ地方政治を行う制度です。ですからこの3都市の市長は、市長であると同時に「施政する市長」でもあるのです。


 1年半前に選出されたベルリン市長ミヒャエル・ミュラー氏は、全てが機知に富み華麗でもあった前任者とは、容姿からはじまり性格も施政案も全てが正反対で、冷静に客観性をもって物事に対することのできる人と云われています。言い換えるとその名の通りの人というわけです。ミュラーは日本の鈴木とか中村に当たるありふれた名字です。何処にでも見かける普通の市民のような人という意味です。
 生まれは1964年で、テンペルホーフ地区で小さな印刷業を営む家庭で育ったということです。父親は熱心なSPD(社会民主党)の支持者で、稼業の傍ら、地方管区議会の議員を務めていたため、一家の食卓には常に”Willy"(現在では伝説英雄になっている、社会党ヴィリー・ブランド首相の愛称)がお総菜と一緒にあり、彼はそこから政治や社会主義について学んだと云っています。
 そしてミュラー氏は印刷工としての修業を終えた後、父親の会社で業務につく傍ら、SPD党員として活発に働いてきたようです。
 このような経歴は、ドイツでインテリとしてのほとんどの人が持つアビチュアー
(高校卒業及び大学入学資格証)を持たず、したがって大学学歴も無いわけです。
それ故、文化や学問的部門には弱いのではという批判に対して,彼は次のような
論拠を述べています。
 「自分としては装飾的な学問用語よりも大切なことがあり、それを第一に考えるべきだと思う。例えば、『自分の付いている職の将来は確保されているか』『子ども達の教育の保障は』『家賃の異常値上げは無いか』『おばあちゃんが行けるホームが見付かるか』 このような心配事は世界政治にはほど遠いが、多くの人が持っている案じ事なのだ。これ等の懸念事項が彼等の生活なのだ。だから、この危疑に対する答えをあげたいと努力するのが自分の第一の指標だと思う。SPD党首の
ガブリエルが『我が党は小市民の弁護党であるべきだ』と云っている通り、自分も小市民に尽くしたい。 国際空港工事がはかどらない事、麻薬政治が旅行案内書に記されていることなど、いろいろと恥ずべき障害はあるが、それでも1年に5万人がベルリン移住のためにやって来る。それを上手くさばくのも仕事なのだ」
 

 もし来週、地方管区議会選挙がベルリンで行われるとしたら、との仮定の下では最多数の26%がSPDに票を入れるだろうとの結果が出ています。念のために。


 このような市長のプロフィールがわたしに残した一番の印象は次の2事項です。
 一つは、ドイツでは誰でも、財産が無くても、大学歴が無くても政治家になれるということ。もう一つは、庶民の食卓に政治の話がオカズのようにあって、子ども達も一緒にそれを食するという事実です。この国の政治が透明で、市民のものと感じさせる根拠がここにあるのではないでしょうか。 


aokijuku at 22:12│コメント(0)

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