2016年06月25日

ビュッケブルグ歳時記 134

ある一人の女性をめぐる政治小劇


 日本でも同じだと思いますが、この国でも国民の「不安の無い年金生活保障」は政治の大きな問題です。調査によると国民の5人に一人が不安無しと云い、3人に一人が老齢貧困に不安を抱いているとの結果が出ています。来年のドイツ連邦議会選挙は「年金問題選挙」と云われるほど、老齢での貧困をどう解決するかが各党の第一スローガンと云ってよいほどの重みを持っているのです。
 各党は既に選挙戦を開始しています。そこへある一人の女性が登場し、社会民主党の副首相と堂々と渡り合って議論をし、メデイアだけではなく世論を湧かせるという場面があったのです。今回はこの展開をご紹介して、この国では政治と国民が近いということ、ひいては政治が透明であるという証明にしたいと思います。


 建物清掃人(容易くいえば掃除婦なのですが、この国では職業を侮蔑すると取られるような呼びかたは避ける傾向があります)が職業のノイマンさん(57歳)はある時事トークショウ(その時のショウモットーは ”今日は少ない賃金、明日は老齢貧困”について)のゲストの一人として招かれました。彼女は”国民の党”と呼ばれてきたSPD=社会民主党を支持し、長年、労働組合員として職業上の問題解決に携わってきたということです。そしてその場を借りて彼女の不安を訴えたのです。「35年間建物清掃人として勤勉に働き、2人の子どもを成長させた。今、病気であるとの診断が下り、年金者となる67歳まで働くことは不可能になった。そこで年金予想額を調べた結果は、月725ユーロということで、この額では生きることも死ぬことも出来ない。このような境遇にある人は私だけではない、スーパーの会計係りやパン屋の手伝い人など同じ境遇の人が大勢居る」 
 そして「私が歩いてきた道に間違があったのでしょうか。SPDのモットーは重労働にはそれに応ずる報酬を約束する、ではなかったのですか」と訴えたのです。5月の出来事です。


 話が飛びますが連邦党として施政してきた社会民主党の人気は落ちているのが現状です。この現象に対して、この春、ガブリエル副首相は「SPDは昔のとおりの
庶民の党に戻ろう」との意志表示をしました。党の人気取り戻しのためかどうかは判りませんが、6月にあったSPD主催の公正についての議論会にノイマンさんを招いて、二人で質疑応答をしたのです。その場のノイマンさんは、こちらでは、口の前に紙をおかない、という表現をしますが、口にチャックをしない、という日本語と同じ意味で、自分の考えを躊躇無く発言して副首相と堂々と対話しました。「SPDは労働者の党ではなくなった。今の、6ガ月単位の労働条件は即刻、変えなければいけない。半年間では組合の仕事も目的を達するには短かすぎる。不満ばかりをくれる党に票をあげる人が少なくなるのは当たり前。格差社会をどうするの。私と同じ下層の多くの仲間達には老齢貧困が待っているのよ」等々。ある事を説明する副首相に向かっては「何故、いつもしゃべるだけで終わらせるの」と疑問、不満をぶつけ、実行無しを指摘して、満場の喝采を受けていました。


 ノイマンさんの発言で、はたして政治革命が起るかは不明ですが、ドイツが民主主義で社会主義的国家であることの意義を見直すきっかけではあると思います。
 また、アメリカ大統領候補者のサンダース氏の「革命は底辺から起るものだ。全国民のための経済を実現して格差を歯止めしたい」との主義を思い出します。そして政治に取って社会主義的考え方は大切なのだと教えられました。


aokijuku at 00:30│コメント(0)

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