2014年10月25日
ビュッケブルグ歳時記 95
大学生となったレナ2 ー ピアノとは?
「上手い!ここまで弾くにはずいぶん練習したのでしょう」という私の問いに、
「午後、宿題を片ずけた後はずっと弾いています。誰もいないので話す人も居ないし」という答えが返ってきました。
前回に書いたとおり、母親も仕事を持っていること、又ドイツの高校は、午後
1時半頃授業が終わるのが普通なのです。2ー3年前からギムナジュウムの期間が
12年間となった州が多いことから、高校も全日制にという動きがあるのですが、
日本のように、午後も午前と同じように授業が行われる形ではなく、午後はスポーツ授業とか、コースとしてのギリシャ語などの古代語やロシア語授業が行われることが多いのです。ですから、週に1ー2日は午後の授業があっても、その他の日は昼食に家に帰り、その後は自由時間となるのです。
レナがギム(ギムナジュウムの縮小呼び名)の中等学年になったとき、それまで練習していたEーピアノ(エレクトローンピアノ)にかわって、古いグランドピアノが彼女の家に来たと、ここでも、喜びに一刷毛の曇りをはいたような表情(理由は後述)で報告されたのを思い出します。そしてピアノを弾く時間がますます増えたのです。午後の自由時間の殆どをピアノを弾くことに費やしていたのです。母親との関係がスムースでなかったことに加えて、家の中での会話が彼女の方に向かっていなかったこと、心を許す友達を持たなかったなどから、話し合える人を持たなかったレナは、若い女生徒の持つ感情をピアノに向かって話していたのだと思います。レナにとってはピアノは弾く楽器だけではなく、感情を分つ会話の相手でもあるのです。レッスンで、ピアノに向かって弾き続ける彼女の姿に、人に寄って来てもらいたくない自分の世界に居ることを主張しているような寂寥感があるのですが、これは、ピアノに自分の気持ちを語りかけていたレナの姿を映し出していたのかもしれません。ピアノは彼女の情操世界であった(る)のです。
大学生となってビーレフェルト市に引っ越すことになりました。この市はミンデンから100キロ程しか離れていないのですが、この地ではほとんどの青年が大学生になると家を離れて独立した生活をするのです。レナも同様です。家賃がなるべく安価で、その上に住み得る(この4字の下には強調する付点があるとご想像下さい。ある程度の広さとか清潔さがあることが条件を意味します)下宿を探していました。学生達に最近流行っているのがWG(Wohngemeinschaftの略)という「数人が一つの住居を共有して生活する住居共同体」ですが、彼女もWGを見つけ、同じギムの同期生で物理専攻のアリと共に住むことになりましたが、「アリにはガール・フレンドが居るのよ。それが煩わしいのだけれど」と一点気に入らないところはあっても、それ以外はおおよそ満足しているように受け取れました。
自分の部屋に必要なベットや机などの家具が一応揃った後、「今最後に、インターネットで安いEーピアノを探しているの。ピアノが無い生活は考えられないから」と云うのを聞いた時には驚きました。彼女に与えられている大学勉学資金が限られていることを知らされている私には、一瞬信じられなかったのです。が、このことはレナとピアノは、本当にレナの心と、楽器(ピアノ)の心の関係で、両者は堅く結ばれているということを示していると知り、感激しました。 つづく
「上手い!ここまで弾くにはずいぶん練習したのでしょう」という私の問いに、
「午後、宿題を片ずけた後はずっと弾いています。誰もいないので話す人も居ないし」という答えが返ってきました。
前回に書いたとおり、母親も仕事を持っていること、又ドイツの高校は、午後
1時半頃授業が終わるのが普通なのです。2ー3年前からギムナジュウムの期間が
12年間となった州が多いことから、高校も全日制にという動きがあるのですが、
日本のように、午後も午前と同じように授業が行われる形ではなく、午後はスポーツ授業とか、コースとしてのギリシャ語などの古代語やロシア語授業が行われることが多いのです。ですから、週に1ー2日は午後の授業があっても、その他の日は昼食に家に帰り、その後は自由時間となるのです。
レナがギム(ギムナジュウムの縮小呼び名)の中等学年になったとき、それまで練習していたEーピアノ(エレクトローンピアノ)にかわって、古いグランドピアノが彼女の家に来たと、ここでも、喜びに一刷毛の曇りをはいたような表情(理由は後述)で報告されたのを思い出します。そしてピアノを弾く時間がますます増えたのです。午後の自由時間の殆どをピアノを弾くことに費やしていたのです。母親との関係がスムースでなかったことに加えて、家の中での会話が彼女の方に向かっていなかったこと、心を許す友達を持たなかったなどから、話し合える人を持たなかったレナは、若い女生徒の持つ感情をピアノに向かって話していたのだと思います。レナにとってはピアノは弾く楽器だけではなく、感情を分つ会話の相手でもあるのです。レッスンで、ピアノに向かって弾き続ける彼女の姿に、人に寄って来てもらいたくない自分の世界に居ることを主張しているような寂寥感があるのですが、これは、ピアノに自分の気持ちを語りかけていたレナの姿を映し出していたのかもしれません。ピアノは彼女の情操世界であった(る)のです。
大学生となってビーレフェルト市に引っ越すことになりました。この市はミンデンから100キロ程しか離れていないのですが、この地ではほとんどの青年が大学生になると家を離れて独立した生活をするのです。レナも同様です。家賃がなるべく安価で、その上に住み得る(この4字の下には強調する付点があるとご想像下さい。ある程度の広さとか清潔さがあることが条件を意味します)下宿を探していました。学生達に最近流行っているのがWG(Wohngemeinschaftの略)という「数人が一つの住居を共有して生活する住居共同体」ですが、彼女もWGを見つけ、同じギムの同期生で物理専攻のアリと共に住むことになりましたが、「アリにはガール・フレンドが居るのよ。それが煩わしいのだけれど」と一点気に入らないところはあっても、それ以外はおおよそ満足しているように受け取れました。
自分の部屋に必要なベットや机などの家具が一応揃った後、「今最後に、インターネットで安いEーピアノを探しているの。ピアノが無い生活は考えられないから」と云うのを聞いた時には驚きました。彼女に与えられている大学勉学資金が限られていることを知らされている私には、一瞬信じられなかったのです。が、このことはレナとピアノは、本当にレナの心と、楽器(ピアノ)の心の関係で、両者は堅く結ばれているということを示していると知り、感激しました。 つづく
aokijuku at 00:05│コメント(0)│