2013年11月23日

ビュッケブルグ歳時記 73

世界学校

 この意味ありげな名前の起こりは、世界という大きさから来たものではなく、在校生220人の国籍が21の国にわたるということからです。東ヨーロッパや中近東からの移住家族の子どもが多いのです。肌の色も、文化も、母国語も、宗教も異なる子ども達が集まっている学校なのです。それに輪をかけて、彼らの家庭の多くが下層階級に属するのです。経済的な貧困は勿論、片親だけというハンデキャップも多く、家には一冊の本もなく、その他の文化の香りもしない家庭環境なのです。家に帰っても誰も迎えてくれない、日本でいう鍵っ子なわけです。ちなみに数年前まではドイツの学校は午前中で終わっていたのですが、今は全日制が多くなっています。ただ、こちらの全日は日本のように午後も授業が行われるのではなく、共働きが多いので、子どもたちの午後を学校が管理する、という形です。これは、学校教師の仕事ではなく、一段下の幼稚園教師などが受け持っています。
 
 世界学校は、上のような理由から、一般学習の他に、上記のような異文化の融合という課題が科せられています。そのためになされている教育を知っていただければと思います。
 「子どもは、その一人一人が異なった個性を持っているが、一人一人の価値は同等である」「どんな子どもでも網から漏れない教育をする」のもとに方針が立てられています。学習の他に子ども達に教えなければならないことは、「マイノリテイーとして生きてゆくために、周りに起る困難を克服する力をもたせる。そのためには生徒同士が互いの気持ちになってみることをさせ、常に友達の立場を考えることで仲良しでいられるように各自に責任感をもたせる」です。これを一言で云うと、「psychosozialen (社会的心理でしょうか。ここでもsozialという言葉が使われています)の健全を保つ」と表現され、勉強と同じように重要視されているのです。目的は、平和なクラスの雰囲気の中で学校生活をさせることです。異文化が集まる所には、多くの摩擦が起きるのをわきまえての融和策だと思います。
 この難しいことを克服するためには、次のようなことが行われています。苦情とよかったことを書いて投げ入れる2個の箱が,各教室にある。そして「褒めよう!」と「こぶし無し、にしよう」の2語がモットーです。この「褒めよう!」のためには、年に数回、子ども達による音楽会、朗読会、演劇会などが行われ、出演者には惜しみなく拍手が送られ、これによって子どもの自信を養おうというわけです。暴力を避けようというモットーは、3/4年生はクラスや学年で仲介議会のような機構を作り、いじめる子、いじめられる子の処分を、出来るだけ自分たちでしようとしています。この仲介議員には皆がなりたく、われ先にと立候補します。希望が叶ったモニカは、「今日の午後は臨時の会議があるので、ピアノには来られません」と、誇らしげに断りに来ました。また、生徒のボリスが指を怪我して来たので、理由を尋ねると、「デニスをやつける遊びのため」というので、よく聞いてみると、デニスを殴りたかったが、禁止されているから出来なので、落ちたリンゴをバケツに入れて、デニスに見立てて棒で叩いた時の怪我と、話してくれました。子ども達なりのやり方で、暴力を避けているのがわかります。


 学習の面で他の学校と違うのは、「週の勉強計画表」が、一人一人の生徒別に
あることです。これは、受け持ちの教師によって、その子の程度を考えに入れて作られ、子ども達は表にそって勉強をし、充分と認められると次の段階に進むのです。能力の差だけではなく、できるドイツ語の程度を考えて計画表を作らなければならないなど、特別な考慮が必要なのです。



aokijuku at 00:05│コメント(0)

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