2012年11月28日

TPP加盟と食糧安保―選挙の争点

きたる衆院総選挙でTPP加盟問題が各政党の重要な政策課題になっているが、国民には
もうひとつピンときて無いのではないか。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)は、例外なき関税撤廃はじめ、域内での物資、金融、人的資源の自由往来を実現するものであるとされている。モノ、カネ、ヒトの国境を越えた自由往来は、域内の経済格差をなくし相互の繁栄をもたらすことは間違いない。

しかし、流通の自由化は相互の平和と繁栄に資するものであっても、対立をなくし平和を保障するものではない。現にEUユーロ圏が直面していることを見ると、国境の垣根をはずし共通通貨を採用しても問題多々である。まして、TPPのように各国の規模、国情が大きく異なった地域では、現実にはいざとなれば自国民優先となろう。またそうでなければ、当該国の為政者は国民の支持を得られない。

そのことは自国民を飢えさせないという食糧の確保、食糧安保問題になると、はっきりする。
約40年前のニクソン大統領による米国の大豆輸出禁止、近くは2007〜8年の食糧不足での輸出制限などがある。では、TPP加入すればこのようなことは起こらないのであろうか。
否である。食糧の自由貿易と、食糧の供給保障とは異なる。
世界の食糧貿易の構造はどうなっているか。WTOはGATT条項にしたがって「輸出国にと
っての基礎的食糧またはその他の重要な物資」の不足を緩和するために一時的に課する農産品輸出に関する量的規制と輸出禁止を認めている。これは、途上国で慢性的に食糧不足に悩む国にとって大きな問題であり、この状態を打破すべくWTOドーハ・ラウンドで討議されたが、まったく進展していない。

食糧貿易においては、輸入国の輸入する権利は確保されておらず、輸出国の輸出制限の権利は認められているという一方的な関係となっている。
TPPの原加盟国ニュージランド、加盟手続き中のオーストラリア、米国、ベトナム(コメ)は、いずれも食糧輸出国である。TPPが米国の主導で上記のGATT以来の食糧輸出条項を完全撤廃し輸入国の購入権利を認めるならば、画期的な国際協定となるが、その見通しはない。
このような基本的な論点をぼやかしたまま、TPP加入可否を論じても国民の理解は得られない。
小論は、日本の農業擁護やTPP反対論ではない。むしろ上記のような食糧貿易の構造を踏まえるならば、日本が有利な農産物を総力を挙げて育て世界市場を握るべきであると考えている。

その品目はコメである。日本列島は水と太陽の光、モンスーン地域というコメの育成条件に恵まれているが、土地制度、農協組織、農水省の保護政策など社会的、歴史的な制約が、コメを国際商品として見ることはなかった。食料自給率が云々されるが、コメが主食であるかぎり全く心配はない。しかし、コメを作る力を失ったならば、将来に食糧争奪戦の状況が起きたときに国民は飢えることになる。TPP加盟問題の機会に、日本の基礎食糧資源であるコメについて皆で考えてみるべきであろう。


aokijuku at 14:41│コメント(0)

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