2011年01月30日

ビュッケブルグ 歳時記 1

私がドイツに住んで、既に半世紀という月日が流れました。今回、高校同級生の河辺さんから勧めをいただき、ドイツ歳時記を書いてみる気になりました。北ドイツの小都市に住む、一日本人の見る、余り知られていないと思われる ドイツの庶民の生活を読んでいただければ幸いです。名付けて 「Bueckeburger Tagebuch =ビュッケブルグ 歳時記」でしょうか。

書き始めの今が丁度1月ですから、日本と全く違うドイツの新年の模様をお伝えすることから始めます。

この国では、12月25、26日のクリスマス連休が過ぎると、商店街の店頭は素早く模様替えをします。それ迄飾られていた、クリスマス装飾用品が速やかに片付けられ、大晦日用の、いろいろな種類の花火が並べられるのです。

一年の最後の日をこの国ではジルベスターと呼びます。紀元335年12月31日に没したジルベスター法王が、良い年になるための守護神であったことからこの呼び名が付いたのです。昔は祝砲を使って、大きな音でこの日が祝われていたそうです。今は爆竹花火がこれに代わり、様々な花火が闇夜を一瞬、きらびやかに彩ります。深夜12時に始まる、この夜空響宴までの時間は、パーテイの時間です。2.3の知り合いの家族が集まるもの、音楽とダンスとアルコールが主客の若い人だけでのもの、勿論、業者も規模の大きなパーテイを売り込みます。この日は、商店も、会社も午後の早い時間に終業しますから、その後、人々はそれぞれ、時計が12時を打つ迄の待ち時間をパーテイで楽しみます。

娘が未だ幼かった頃、主人の両親とした「鉛流し」という、この国伝統の遊びが思い出されます。これは、小匙に入れた鉛を、下に置いたロウソクで熱し、柔らかくなった鉛を冷たい水の中に放すのです。鉛は一瞬に様々な形に固まります。その固まった形で、その人の来る年の運を占うのです。例えば、木の形に固まったものは、「来年は信用出来る友達が出来る」とか、鐘の形は「いいことは、上から降ってくる」というように。思い合っている二人が流した鉛が矢の形になった時こそ、歓声が上がります。「愛の女神が放つ矢は、あなたに向かっている」ですから。残念ながら今、この遊びをする人は少なくなっているようです。

いよいよ零時です。人々は我先にと厳寒の外に飛び出して、用意した花火を打ち上げます。大きな音を出して、勢いよく夜空に飛び出すものとか、何度も連続してはじける種類など様々です。子ども達に人気のあるのは、火をつけると地面を飛び回るネズミ花火です。一億ユーロに相当する花火が、ドイツの夜空を昼間のように明るくするのです。辺りを満たす爆発音と硝煙の匂いの中で、人々は口々に新年の挨拶を交わし合います。するのも、されるのも早ければ早い程、新年のもたらす幸運は多いといわれているからです。

こうした騒音が止むのは、東の空がほんのり色づいて来る頃です。
教会の鐘が年明けを告げる頃、通りを行くのは木枯らしと、それに追われる枯れ葉だけです。人は暖かい寝床で眠りを楽しんでいます。

そうです、ドイツの新年は、寝正月なのです。

aokijuku at 00:03│コメント(0)

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