【ドイツ在住ピアニスト】

2023年07月08日

ビュッケブルグ歳時記 300

来年度の予算


 議会の夏休みの始まる前に、2024年の予算が経済省から発表されました。全額 445,7 Milliarde ( 1 Milliarde =10 億 )ユーロです。
 新聞の見出しは「防衛省を除いては全て倹約しなければならない」で、171.7 ユーロの労働及び社会事業と、51.9 ユーロの防衛費、38.7 ユーロのデジタル化と探究の3項目は予算が多くなっている他は、全て額が少なくなっています。(単位は全て Milliarde = Mrd.)

 予算が多くなった社会事業の中に、歳時記292に書いた、”豊富な国” ドイツの子供達の環境を高めようとする考案が取り上げられているので、今回はそれをご紹介してみます。


 ドイツ語では 「Kindergrundsicherung」で、日本語だと『子供達への経済的基礎保障』とでも言える、貧しい家庭の子供たちを経済的に助ける機構を確保しようという考案です。
 今までも低収入の家庭の子供たちは毎月250ユーロが支払われる制度があったのですが、申し込み方法がわからなかったとか、このような制度の存在も知らなかったとかの理由で3分の1の子供たちはこのようなシステムの恩恵を受けていなかった、というのが真相のようです。

 この国では18歳までの子供の五人に一人は、18歳以上の青少年では四人に一人は貧しい家庭の子供であるということです。”貧しい” の基準は、中級の月給の60%以下の月給の家庭を指しているということです。


 それを更生して、援助の必要のある家庭には今までのように月250ユーロ、親の収入がこれより小の場合は増額する。また子供の成長とともに必要が認められる場合は相応の援助を与える、又申し込みなどの複雑さを改良して庶民に近い制度とする、というのが Kindergrundsicherung の目的のようです。

 が、アンペル連立党の ”貧しい子供達を救済しよう” との案に対する反応は今のところ、みどりの党がXL, SPDがM, FDPがSと、(このXL, M, Sは洋服の基準を借用している)初案者のみどりの党の希望にはまだまだ届かないというのが現状のようです。理由は資金がかかり過ぎるから、ということです。

 しかし、この制度を作ることは確実で、この制度の発案党、みどりの党の家族省大臣は 12 Milliarden を欲しているそうですが、来年の予算を発表したFDPの経済大臣はたったの 2 Milliarden を配布したと報道されています。


 この様に今の政党になってからのこの国の政治が、下層階級を応援していることが見えて、一国を担う政党の選挙の重要さを教えられる様にも思われます。

 同時にふっと思いついたのが、ときどき見る日本のデジタル新聞上の奨学金の返済に悲鳴を上げている日本の新社会人のことです。

 ドイツの事情を調べてみたのですが、この国の BAfoeG と呼ばれる政府からの奨学金は半分を返せば残りの半分は政府からの”贈り物”として、返済必要なしということです。ドイツは将来の国民育成を重んじている国なのかもしれません。
 BAfoeGについてはまたの機会にお知らせするかもしれません。

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2023年06月24日

ビュッケブルグ歳時記 299

Abitur ー 高校卒業試験


 ドイツの高校卒業試験を Abitur というのですが、この試験は州によって様々ですが、6月に行われるのが決まりです。

 州によっても、また学校形式によっても問題の困難度も様々なのですが、この試験は通ると高校卒業証と同時に大学その他の高等教育を受けられる資格が与えられるという、日本の大学入試に相当する試験なのです。

 ここまでの段階の学校教育は、日本と同じように6歳−18歳で終わるわけですが、この「Abitur」をとった後の行程に日本には無い制度があるので、今回はその模様をお伝えしてみます。


 ”Was machst Du nach dem Abitur?“ = ”Abitur をとった後、どうするの?”
という問いがかけられるのが普通で、以前は男子は兵役に行き、終了後父親の職業を継ぐというのが普通だったが、時代の変化とともに、個人の自由が尊重される現代になり、”進学するにしろ、職業につくにしろ方向を選ぶ前にそれぞれが自分の行く道を考え、見出す期間が与えられる” のが今の時代となっているのです。

 どのような可能性が与えられるのかを挙げてみます。

* 社会的仕事を、自由意志でする期間 ー 病院や施設などの機関で困っている人たちの世話をする期間で、半年から最高18ヶ月、1週間に39時間働く。
  この系統の働きの中には 自然保護の仕事をする部門もある。

* 地震、洪水、台風などのカタストローフェが起こった場合の助け。この役目は兵役が義務でなくなった時に組織されたもので、27歳までの青年に課せられる。
 このような社会援護の義務を負うことは、就職の時などに好印象となる。

* また、”学問的研究” をする過程も最近になって作られた。この場合は制度のある大学で研究学者の手伝いを1年間する。

* このような仕事を国内ではなく、外国で行う可能性も作られている。
  老人、病人、身体障害者などとの仕事や、スポーツ関係や記念物の保護などの仕事の他に、平和を保つための仕事や民主主義を広めるための仕事もなされる。

* 外国で行う場合は勿論、その国の文化を学んだり、言葉を学べることも大きな収穫となる。
  
* Au Pair として外国の家庭で子供の世話をする。

* これらの仕事は仕事は名誉職なので給料は出ないが ”小遣い” は支給される。
 438ユーロが上限とされているが平均して月150ユーロが支給される。また社会保険は雇い主が支払う。


 このように学校生活を終えたを青年に対して、次に来る社会生活への準備の制度を用意してある教育形態に感心してしまうのですが、すでに書いたように今のこの国の状況では、60%のAbitur獲得者は大学や専門学校での勉学を始める学生が多いということです。

 それでも将来の祖国を作る青年たちに、社会奉仕の仕事、外国での奉仕、工場などでの実習で、将来の方針を考えられる一年を与えることは、良い国民を作る政治とも言えるようにも思えます。

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2023年06月10日

ビュッケブルグ歳時記 298

ドイツ経済に関係するある予想


 今回のブログでは、数日前のニュースで伝えられたこの国の産業上に起き得る困難について、をお伝えしてみます。


* 現在でも労働力不足がこの国の企業にとって問題となっているが、来年からは困難度が激烈になると予想される。

* その理由の大きな一つとして考えられるのが、例の約60年前のベイビー・ブーム時代に生まれた労働者群が年金者となって職を離れることである。

* ここから2035年には 7 Millionen(1Million=百万)人の労働力が不足すると予想される。
 この予想の中で大きいのは、現在まで専門家として、時間数で働いていた女性達が年金者となることである。
 それに加えて最近の若い年代は、昔のように職業養成機関制で職を学ぶことよりも大学、または専門学校で学ぶことを優先していることも原因の一つである。

* ドイツの連邦労働代理所は、毎年1200の仕事場状況を定期的に調べているのだが、その中の200の企業が勤労者不足に陥るだろうとの結果を発表している。
 これは現在でも労働力不足を訴えていることを意味しているのである。そしてこの数は昨年に比べて52会社も多くなっているのである。

* このように現在も労動力が不足している職場とは、やはり給料が安く、労働量は大きく、従って仕事と家庭生活のギャップが大きいことが目立つ。


* もう一つ、労働力不足という事実が社会にもたらす事情で忘れてはならないことがある。それは老人や病人を世話する擁護人や、子供の世話や教育をする幼稚園などの教育をする世話係、医者のプラクシスや病院で働く専門技術者の不足ということである。またこれに属する職種として、バスの運転手、タクシー運転手、長距離運転手などが挙げられる。忘れてならないのは建築工事人である。

* このような労働力不足はドイツの経済界成長を大きく阻止することになる。
  金額にすると、年に 86 Milliarden (1Milliarde=10 億)に相当すると発表されている。

* 運送業界の実情は次のようなものである。2000人を養成したが、離職者は30000人という数にのぼり、このような状態がその他の職種にも起こっているのである。

* このように、特別な労働力不足ではなく、普通の労働力不足ということに対しての処置が現在、及び将来に要求されているのが現在のこの国の経済界状態である。


* このような状態から抜け出るために必要なのは、次に挙げる3項と思われる。

 1. 柔軟な労働条件 + 新しいdigitale と hybride な労働モデル + 良い給料
 2. 外国からの専門(熟練)工を受け入れる
 3. 女性労働者の全日制職場への復帰


 これは民間の専門家による記事ですが、翌日の新聞には労働大臣と外務大臣がブラジルへ行って、老人看護人の養成と来独を促している記事が見られました。
 政府も対策を練っているように思われます。

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2023年05月27日

ビュッケブルグ歳時記 297

今のドイツ・・・ 労働の日(5月1日)をめぐって


 続くウクライナ戦争だけでなく、世界中の経済がインフレとなっている現在ですが、5月1日は ”労働の日” で、その日の新聞に掲載された記事は、この国の現在の様子をよく示していると思われますのでご紹介してみます。


 見出しは『 ”週4日間の労働” が実現した場合には良い結果が得られるだろうか』です。

 今年の労働の日には、この国の社会は現在の一週間に5日間働くことからくる労働者のストレスを解消するために、 労働日を4日間とする ”週4日間労働制度” を望んでいるのです。そのためには、アンペル連立党の承諾が必要で、その交渉役にSPD(社会民主党)の女性議長が当たっています。

 この議長と新聞記者との会談の内容を少し詳しくお知らせしてみます。


* 議長の言:『5月1日 は歴史的には ”ストライキ日” です。19世紀には、工業国となったドイツで、労働者が自分達の立場を強化するために作られた『戦う日』でした。
 そして160年前には、このような労働者の行動を支持し、守るためにSPD=社会民主党が作られたのです。 工業国にとって労働者の権利を見守り、保証することはとても大切なことなのです。この動きは残炎ながらその後ヒットラーの時代に闘争力を奪われてしまっていました。』


* 労働時間については、1950年に、一週間5日間労働となり「これからは、土曜日のパパは僕のもの」となりなりました。そして今回で4日間労働となると「土・日はパパとママがわたしのもの」となるのかという質問には、
 『そのとおりです。労働者階級の両親には彼らのそれぞれの家庭をマネージする義務があり、それを全うするためにはそれに合った時間が必要なのです。
 このことは、ドイツだけではなくヨーロッパ全体に、ある仕事の専門家が必要になっているという今の労働界の老化を矯正するためにも効果的だと言っていいと思われます。
 労働者が個人の時間を多く持てることは、個々の生活に満足することなのですから』


* 労働時間短縮と給料調節については、
 『もちろん調整が必要です。今の給料が、今の生活を続けるためには十分ではないということも明白です。労働時間が短くなるということから、個人の仕事を自分でできるということや、一日通勤が少なくなることから出費が少なくなるなどの諸事を抜いても、給料の調整は国の大きな仕事となると思います』


 このような国のアイデイアについて ”大きな拍手を送る” との組合からの記事も掲載されていることもお知らせしておきます。

 このように ”余暇=自由な時間" が再発見されているこの頃のドイツなのです。
 『週4日間の労働制度』が実現されるかどうかはさておいて、このように市民の求めることを聞き流すのではなく、討論してみるというだけでも、国民の意向を忘れていない民主政治のように見受けられるのですが・・・

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2023年05月13日

ビュッケブルグ歳時記 296

今のドイツ


 ウクライナ戦争の行方もわからないまま、インフレ、食料品の値上がりから庶民の生活が脅かされることから、ストライキ(以下、ストとする)が激化しているこの頃のドイツの世情はお伝えしましたが、今回はその結末をお伝えしてみます。
 それと同時に、日独民主主義の友好国なのに違うところも多くあるのだと気がついたのでそのことも知っていただきたいと思い書き添えてみます。(かっこ内)


1)Blog 294 でお伝えした二つの大きなストのうち、IG Metall の鉄道関係の解決は、4月の末までに3−4回の交渉が行われたにもかかわらず、決裂したままの状態ということです。ですから今までに数度、部分的な鉄道ストがありました。

 (昨年、日本で「電車が数分遅れた」というだけで運転手が減俸処分を受けたという記事がこちらで発表された時は、記事を信じられない人の方が多かったと思われます! それほどこの国の汽車のタイムは不確かなのです)


2)それに反して、 Ver Di の公共サービス仕事についている労働者に対しては大きなコスト上昇が決定されたと4月24日の新聞に発表されました。その様子を少し詳しくお知らせしてみます。

 特別資金として3000ユーロが支給される。その内1240ユーロは今年の7月までに支払われ、残りの金額は月額220ユーロが2024年の2月までに支払われる。その後は200ユーロとなり、これは5、5%の昇給となると考えてよい、という交渉結果が発表されています。

 この昇給を受けられる職種とは幼稚園の先生などの教育者、バスの運転手、水泳所の労働者、汚水処理所労働者、消防関係者、森の管理人、老人介護者などの250万人です。

 例えばゴミ集めの労働者は357ユーロの昇給を受けられることを意味する。この労働賃金協定は今までで一番高い昇給率と言って良いものである、とのコメントが地方自治団体の団長から出ているということです。

 そしてこの現象は雇用者にとってはどのような意味を持つかというと、地方自治団体と街にとっての散財となり17 Milliarden が必要だと発表されています。

 (この国の労働組合の持つ強い力に驚いてしまいます。日本で組合が勝ったことはほとんどないと思われるのですが・・・私の思い違いでしょうか)


3)今年の7月にこの国では年金が値上げされます。考えられていたより多額で東は5、86%、西は4、39%ということです。
 値上げは労働市場が順調であることと、一般の給料が上がることが原因であると発表されています。

 (この国の年金省は、「我が国の年金状況は健康である。3、4Milliarde(10億)の過剰蓄え金もある」との、安定性を誇っているということです)


 このように、鉄道問題を除いてはこの国の未来はそう暗くないように思われるのですが、本当にそうあってくれるように願いながらのブログです。

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