イク・リスマン

2023年05月27日

ビュッケブルグ歳時記 297

今のドイツ・・・ 労働の日(5月1日)をめぐって


 続くウクライナ戦争だけでなく、世界中の経済がインフレとなっている現在ですが、5月1日は ”労働の日” で、その日の新聞に掲載された記事は、この国の現在の様子をよく示していると思われますのでご紹介してみます。


 見出しは『 ”週4日間の労働” が実現した場合には良い結果が得られるだろうか』です。

 今年の労働の日には、この国の社会は現在の一週間に5日間働くことからくる労働者のストレスを解消するために、 労働日を4日間とする ”週4日間労働制度” を望んでいるのです。そのためには、アンペル連立党の承諾が必要で、その交渉役にSPD(社会民主党)の女性議長が当たっています。

 この議長と新聞記者との会談の内容を少し詳しくお知らせしてみます。


* 議長の言:『5月1日 は歴史的には ”ストライキ日” です。19世紀には、工業国となったドイツで、労働者が自分達の立場を強化するために作られた『戦う日』でした。
 そして160年前には、このような労働者の行動を支持し、守るためにSPD=社会民主党が作られたのです。 工業国にとって労働者の権利を見守り、保証することはとても大切なことなのです。この動きは残炎ながらその後ヒットラーの時代に闘争力を奪われてしまっていました。』


* 労働時間については、1950年に、一週間5日間労働となり「これからは、土曜日のパパは僕のもの」となりなりました。そして今回で4日間労働となると「土・日はパパとママがわたしのもの」となるのかという質問には、
 『そのとおりです。労働者階級の両親には彼らのそれぞれの家庭をマネージする義務があり、それを全うするためにはそれに合った時間が必要なのです。
 このことは、ドイツだけではなくヨーロッパ全体に、ある仕事の専門家が必要になっているという今の労働界の老化を矯正するためにも効果的だと言っていいと思われます。
 労働者が個人の時間を多く持てることは、個々の生活に満足することなのですから』


* 労働時間短縮と給料調節については、
 『もちろん調整が必要です。今の給料が、今の生活を続けるためには十分ではないということも明白です。労働時間が短くなるということから、個人の仕事を自分でできるということや、一日通勤が少なくなることから出費が少なくなるなどの諸事を抜いても、給料の調整は国の大きな仕事となると思います』


 このような国のアイデイアについて ”大きな拍手を送る” との組合からの記事も掲載されていることもお知らせしておきます。

 このように ”余暇=自由な時間" が再発見されているこの頃のドイツなのです。
 『週4日間の労働制度』が実現されるかどうかはさておいて、このように市民の求めることを聞き流すのではなく、討論してみるというだけでも、国民の意向を忘れていない民主政治のように見受けられるのですが・・・

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2023年05月13日

ビュッケブルグ歳時記 296

今のドイツ


 ウクライナ戦争の行方もわからないまま、インフレ、食料品の値上がりから庶民の生活が脅かされることから、ストライキ(以下、ストとする)が激化しているこの頃のドイツの世情はお伝えしましたが、今回はその結末をお伝えしてみます。
 それと同時に、日独民主主義の友好国なのに違うところも多くあるのだと気がついたのでそのことも知っていただきたいと思い書き添えてみます。(かっこ内)


1)Blog 294 でお伝えした二つの大きなストのうち、IG Metall の鉄道関係の解決は、4月の末までに3−4回の交渉が行われたにもかかわらず、決裂したままの状態ということです。ですから今までに数度、部分的な鉄道ストがありました。

 (昨年、日本で「電車が数分遅れた」というだけで運転手が減俸処分を受けたという記事がこちらで発表された時は、記事を信じられない人の方が多かったと思われます! それほどこの国の汽車のタイムは不確かなのです)


2)それに反して、 Ver Di の公共サービス仕事についている労働者に対しては大きなコスト上昇が決定されたと4月24日の新聞に発表されました。その様子を少し詳しくお知らせしてみます。

 特別資金として3000ユーロが支給される。その内1240ユーロは今年の7月までに支払われ、残りの金額は月額220ユーロが2024年の2月までに支払われる。その後は200ユーロとなり、これは5、5%の昇給となると考えてよい、という交渉結果が発表されています。

 この昇給を受けられる職種とは幼稚園の先生などの教育者、バスの運転手、水泳所の労働者、汚水処理所労働者、消防関係者、森の管理人、老人介護者などの250万人です。

 例えばゴミ集めの労働者は357ユーロの昇給を受けられることを意味する。この労働賃金協定は今までで一番高い昇給率と言って良いものである、とのコメントが地方自治団体の団長から出ているということです。

 そしてこの現象は雇用者にとってはどのような意味を持つかというと、地方自治団体と街にとっての散財となり17 Milliarden が必要だと発表されています。

 (この国の労働組合の持つ強い力に驚いてしまいます。日本で組合が勝ったことはほとんどないと思われるのですが・・・私の思い違いでしょうか)


3)今年の7月にこの国では年金が値上げされます。考えられていたより多額で東は5、86%、西は4、39%ということです。
 値上げは労働市場が順調であることと、一般の給料が上がることが原因であると発表されています。

 (この国の年金省は、「我が国の年金状況は健康である。3、4Milliarde(10億)の過剰蓄え金もある」との、安定性を誇っているということです)


 このように、鉄道問題を除いてはこの国の未来はそう暗くないように思われるのですが、本当にそうあってくれるように願いながらのブログです。

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2023年04月22日

ビュッケブルグ歳時記 295

自由で、正直なこの国の政治のあり方


 ドイツでは4年ごとに連邦議会選挙が行われます。今の議会は2021年に行われた選挙でアンペル連立党が政権を得て、政治を施行中ということは周知のことです。

 首都のベルリンは、市だけで他の州のような働きを持っている制度なのですが(このような制度はベルリンの他にハンブルグ、ブレーメン市が同じ)、2021年の選挙の折に、選挙準備に支障があり、選挙場の不備のため選挙権を持つ市民の中のある人たちは選挙が出来なかったという支障が起こったのです。そこで1年半後の今年の3月に選挙をやり直したのです。
 その結果、これまでベルリンを統治していたSPD党がわずかの差でCDU党に負けてしまったのです。


 この結果は、2021年の選挙後の1年半を”赤い市庁舎”として有名な建物の中で、良い政治家として市民からも愛されていた女性市長 Franziska Giffey(以後、F. Gi 氏とする)氏に、二つの政治街道のどちらかを選ばなければならないという基点に立つという試練の場となったのです。

 その基点とは F. Gi 氏が、

1)2021年から今までの1年半をみどりの党と左の党との連立党としての”赤い市庁舎の主、女性市長”という大きな支配権を持ち続けることを選ぶか、

2)女性市長の権利を放棄して、CDUとの連立政治を選ぶか、という歴史的とも言える決断を迫られたわけです。

 2)を選んだ場合には今までの市長としての権力を失うだけではなく、”赤い市庁舎の市長室”も立ち退き、事務室勤務となり、退職手当も支給されないという経済的にも大きな犠牲を伴うという選択だということが新聞紙上に掲載されています。

 このような状態を経て4月の上旬に、F. Gi. 氏の選択、2)が発表されたのです。


 以下は新聞に載った彼女とのインタビューの一部です。

ジャーナリスト(以下 J.): あなたが政治家になる道を選んだ理由は?
 
F. Gi. : ベルリンのNeukoelln 区を変えようと思ったからです。この区に住んでいる恵まれない青少年達と、女性の境遇を見たとき、その貧困の大きさと前途の見えない未来を救いたいと思い、24年前からSPD が適しているという確信から政治界に入ったのです。
 この区では、郊外に住む住人と、中心部に住む住人との間には倫理的な差が大きいと言われることが多いのですが、このよう差は無いことを証明しようと思ったことも、政治に向かった私の目的です。

J. : 今回の結論、CDU の下で働くという決心はメルケル前首相に相談しましか。
 
F. Gi. : 相談はしませんでしたが結果は電話で 報告しました。

J. : 彼女の反応は?

F. Gi. : 脱帽! と言われました。


 選挙をやり直す、ということも初めて聞くことでしたし、その結果もある意味で新鮮な、未来が明るくなるような政治が市民の近くにあるような話なので、お伝えします。

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2023年04月08日

ビュッケブルグ歳時記 294

ドイツが麻痺状態となった3月27日(月曜日)


 麻痺状態となったのは全国の交通機関(汽車、電車バス、など)が、月曜の0時から24時まで警告ストライキ(以下、スト)に入ったことが原因なのです。

 翌日の新聞紙上で、地方鉄道の小さな駅で汽車を待つのは冬の名残りの雪だけという寂しい写真を見た時にはこの国のストの強硬さに驚きました。

 日本で、全国を通じて汽車が走らないという日があるとは思えないので、”そのことがある” この国の ”社会” をお伝えしてみます。


 先ず、ストについて。

 労働者が昇給や勤務時間の短縮を望んだ場合、雇い側の会社と協議するのはその会社の労働組合ということは、西側のどこの工業国でも同じことだと思います。

 この国では
 IG Metall (IGM) = 自動車製造会社のようなメタルに関係した会社連 と
 Ver. Di = バスの車掌、病院の事務関係労働者、幼稚園の指導者などが大きな組合として挙げられます。
 公務員、ある種の教師などの職には組合はないということです。

 労働組合ができたのは160年前という長い歴史があるということです。
 初めの頃は会社側からの圧力が強かったということですが、労働者の組合入りが多くなると共に、組合の力が大きくなり、今回のように全国を通じての交通機関のストにまでなったわけです。

 経営者だけが権力を持つ時代の会社が、労働者も権力を持つ時代となり、労働者の持つ一番大きな圧力がストライキというわけで、今回の全国にわたる交通機関のストとなったわけです。
 今回の24時間ストは実に31年振りということです。


 今回のストでは 2.5Millionen の IG Metall の労働者側からは10.5% の昇給と一度の500ユーロの現金支払いが要求された事項だということです。

 経営者側からは、これから来る27ヶ月には5%の昇給、2500ユーロを一回インフレ対策費として支払う、との案が出されているそうです。

 又は、少し前に行われたポスト(郵便局)Ver. Di のストの解決策、従業員全員が1回のみ1020ユーロを受け取り、インフレ対策として2023年の5月から2024年の3月まで180ユーロを支給されるという方法も解決法として示されていることも発表されています。

 そして、今回のような民間人に迷惑をかけるストが行われたことを遺憾とするとの言葉もあったようですが、会社側からは組合に罰を与えることや労働者の退職扱いなどは出来ないということです。


 最後に全国を麻痺状態に導いた今回のストを、国民の55%は ”良” として受け取り、38%が ”否” として受け取ったという結果もお知らせしておきます。

 このような国民一人一人が自分の権利を主張することが出来る国は自由のある国、民主主義の国と言って良いと思うのですが・・・

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2023年03月25日

ビュッケブルグ歳時記 293

ドイツ連邦共和国大統領の転換

 
 この表題からはなんとなく異様な感じを受けられる読者の方が多いかと思われますので、まず、「大統領」について簡単に説明をします。


 大統領とはドイツ連邦共和国の国家元首で、ドイツに住み、連邦議会の選挙権を持つ40歳以上の人で、5年に一度、連邦会議で選挙される人物のことです。

 首都ベルリンにある Bellevue城 が住処。

 大統領は2度のみ、再選されることが可能。


 大統領の役目とは、内外の国家元首の受け入れ及び訪問。諸大臣任命、連邦裁判官任命、新法律認知署名、囚人の恩赦を決め、発表する。

 大統領は政治に中立です。議員である場合は、大統領である期間、議員職は休職とする。
 政治家だけではなく俳優、スポーツ人、芸術家などからも選ばれた人たちの中から二人を選び出し最後は連邦会議で演説をし、その結果で選出される。

 このように大統領とはある意味ではこの国のすべての上に立つ人で、(良い例ではないかもしれませんが)日本の天皇に相当する人物と言って良いかと思われる職種です。


 現在の大統領は 2017年に選出され、2022年に再選されたFrank ー Walter Steinmeier(以下 St.大統領とする)です。議員時代はSPD党員。

 彼は、首相が SPDのシュレーダー氏の時代に、外務大臣として活躍していた人で、彼の時代にはロシアも、西側と友好関係にあった時代のようで、ヨーロッパを「ロシアも入れた家」として建て直そうという外交関係を志し、仕事をしていた人だということです。

 それが今のような、ロシアがプーチンを指揮する国となって、ウクライナを取り戻す戦争を始める時代となり、St大統領の「ロシアを入れたヨーロッパの家」の建築の夢は消えてしまったわけです。

 そこから去年の4月に大統領 St 大統領は「私が Nord Stram 2 に希望を繋いでいたことは間違いであった。また「ロシアを入れたヨーロッパ家」を建てようと夢見たことも間違えであった。
 プーチンは、ロシアの経済、政治、道徳倫理上の没落を自分の失敗とは認めるような指導者ではないことも見逃していた。その結果がウクライナ戦争という形になったことを認識できなかった」
と、自分の無力さを明らかにし、武器を用いない外交を夢見た自分の間違えを公にしたのです。


 一つの国の指導者の重要さを知る一例のような気がしたので、書きました。

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