2021年09月11日

ビュッケブルグ歳時記 256

最後の撹乱

 2週間後、9月26日に行われる連邦選挙を前に、この国で最初の首相として自分の意志で引退するメルケル首相は、8日に行われた会議で最後の演説を行ったのですが、その内容も16年間の彼女の国統率力と同じようにスーペラテイブであったと報じられています。その模様を日本と少し異なると思われるこの国の選挙様式とともにお伝えしてみます。

 8日に行われた最後の会議には、議長として引退後の国に残す政治上の遺言のような演説を期待していた議員が多かったところへ、メルケル首相は選挙戦を始めたのです。
 「今回の選挙では”赤ー赤ー緑” (この国では、一党が政党となるよりも、2、3の党が組んで連合党として施政することが多い。*)の方向に向かっているように思われるが、自分としてはこの国のために一番良い政治をするのはCDU/CSU連合党だと思う」との発言に、会場は非難のヤジで大騒ぎになったのです。 多くの議員が反対意見を怒鳴り出した模様がTV でも中継されました。
 この騒ぎを悠然と眺めていた首相は「まあ皆さん、なんという騒ぎをなさるのでしょう。私は30年以上この連邦議会の会員として過ごしてきたのです。このような問題を検討するのが連邦議会で、連邦議会はドイツのデモクラシーの住むところで、民主主義の心が住むところである筈ですのに!」

 16年間という長い年月に首相が成した業績を見てみると:
1. 負債危機 2. EU危機 3. ギリシャ危機 4. ウクライナ危機 5. 難民危機 6. コロナ危機 7. アフガニスタン危機 
 このような危機の全てをマスターした首相の持つ能力とは、あるトークショウで明かしたのは「私は駱駝のような耐久力を持っている」ということで、彼女は長い乾燥期間を耐え得る能力を持っているということ。また病気で休養したことがほとんどない。そして CDU に存在した男尊とも戦ったし、プーチンやベレスコーニなどの敵とも対等に戦った。このようなことが彼女が首相としての最高点を取った理由だと言われています。

 最後に彼女の級をもっと上げるのが、自分から「この役を降りる」として止めることである。失脚とか辞職とか解任とかの理由でなく、自分の意志で止めることも点を上げる理由であると書かれています。この国ではこれまでにこのような辞職の例は無いそうです。
 またCDU の最初の女性党首、東ドイツからの首相、ヨーロッパ最高齢の女性首相などの事項も彼女の級を上げる事項とされています。
 このように引退の最後まで、最高の統率者として尊敬されているのがメルケル首相なのです。 

 * この国では連立党という言葉をよく聞きます。
例えば: 
Ampel(交通信号)連合党とは赤+黄色+緑=SPD(社会党)+FDP(自由民主党)+Gruen(緑の党)
Jamaika(ジャマイカ)連合党とは ジャマイカ国旗の色=CDU/CSU+FDP+Gruen
Rot(赤)+Rot(赤)+Gruen 連合党とは= SPD(社会党)+Linke(左党)+Gruen
などで、党を色で分けることによって連合を区別しているのです。
 2017年から現在まではCDU/CSUとSPDの大連合が政治を施行していたわけです。 

 この国ではワイマール時代にたくさんの党があったということですが、それ以後は少なくなっていたようですが2次大戦後、民主主義の時代になって人々の考えが様々となり、党の数も増えたということです。 
 この党が多いということは、市民の持つ異なった政治観を受け入れる方法として、より民主的と言えるのではないでしょうか。


aokijuku at 10:30│コメント(0)

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